遺言書作成(遺言の方式、各メリット・デメリット)
1 相続発生前にすべきこと(遺言書作成による生前対策)
遺族が、相続発生により、「争族」になってしまうことはよくあります。
生前に遺言書をきちんと作成していたら遺族はこのような苦労をしなかったのに~と思う案件も多々あります。
遺言書を作成しない方は、概ね次のような考え方をしていることが多いです。
ご自身も当てはまっていないかをご確認ください。
- ・「自分にはたいした財産はない」
- ⇒無料(ただ)でもらえるのであれば、少ない財産であろうと欲しいと思うのが人情です。日本自体がどんどん貧しくなっていくので、子供達の世代は親世代に比べて経済的に苦しいことが多いのが実情です。
- ・「家族仲がよいから遺言は必要ない」
- ⇒遺産分割協議には、血のつながった子供達のみならず、その配偶者の思惑が絡んでくるケースも多々あります。
- ・「法律の定めどおりに分けてくれればよい」
- ⇒遺産の構成次第では、法定相続分どおりに厳密に分けることは不可能なこともあります。また、寄与分・特別受益などの主張も出てきてもめるケースもあります。
- ・「財産を使い切るから遺言は必要ない」
- ⇒実際に財産を使い切れていないケースがあります。特に不慮の事故、急な病気には要注意です。人生では、いつ、なにが起こるかは分かりません。
以上のような考え方を持たれていて、遺言書を作成しなくてよいと思っていた方は、是非、この機会に本当にその考え方で良いのか、ご自身の資産状況・家族状況を見つめ直してみてください。
2 遺言書を作成すべきケース(特に「争族」になりやすいケース)
次にあげるケースでは、遺言書の作成が特に必要と思われるケースです。
当てはまる方は、すぐにでも遺言書の作成のために弁護士に相談すべきです。
- ・結婚をしているが子供がいない。
- ⇒夫が亡くなった後、妻は夫の両親や兄弟と遺産分割協議をしなくてはならず、妻にかなりの負担がかかってしまいます。特に夫の両親が他界していて兄弟と協議する場合は、戸籍を取り寄せるのも一苦労で、かなりの時間と労力がかかるケースが多いです。
- ・前妻(夫)の子がいる。
- ⇒夫が亡くなった場合、後妻が前妻の子と遺産分割協議をしなくてはならず、感情的な対立のため、協議が長期化する可能性がある。後妻にしてもかなりの負担となります。
- ・愛人に生ませた隠し子がいるが、自分が亡くなった後に認知したい。
- ⇒遺言書の作成で愛人との子供を認知することが可能です。遺言書は家族に対しての配慮がかなり必要になってきます。
- ・内縁の妻(夫)がいる。
- ⇒内縁の夫が亡くなった場合、遺言書がないと原則として内縁の妻は遺産をもらうことができず、生活に困窮する可能性があります。
- ・めぼしい資産は不動産しかない。
- ⇒調整しやすい金融資産が少ないので、遺産分割協議が難航する可能性があります。
- ・共有名義の不動産を所有している。
- ⇒共有者との関係性にもよるが、基本的に共有物件は、管理・処分も自由にできず、共有者との調整も必要なので協議も難しい。
- ・家業を長男に継がせたい。
- ⇒協議の結果、家業に必要な資産が、全て長男に引き継がれない危険があり、長男がかなり苦労する可能性があります。
- ・世話になった友人にも遺産を与えたい、または遺産を寄付したい。
- ⇒遺言書を作成しないと法定相続人に相続されてしまいます。
- ・行方不明の家族がいる。
- ⇒相続人が遺産分割協議をするには、行方不明となっている相続人のために不在者財産管理人選任申立てをする必要があります。
- ・特定の相続人のみに多額の生前贈与をしている。
- ⇒遺産分割協議で特別受益の主張がなされ、協議が長期化する危険があります。
- ・特定の相続人に介護をしてもらっている。
- ⇒遺産分割協議で寄与分の主張がなされ、協議が長期化する危険があります。
3 遺言書の方式及びそのメリット・デメリットについて
遺言の方式としては、特別なものを除けば「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」があります(民法967条)。
このうち多くの場合選択するのは、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかと思われますので、この2つについて以下ご紹介します。
(1) 自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、文字通り自らの手書きで作成する遺言書です。
比較的簡便に作成でき、費用も特にかからないという点がメリットになります。
一方で、デメリットとしては、当然に誰かが預かってくれるということはありませんので、紛失・発見されないリスクがあったり、破棄・変造されるリスクがあったりします。
また、遺言書の発見者や保管者は、検認の申立てをしなければならず、手続きが面倒です(なお、令和2年7月から、法務局が自筆証書遺言書の原本を保管してくれるという自筆証書遺言書保管制度が始まりました。
この制度を利用すれば紛失・破棄・変造の危険がなくなり、検認も不要となります。)。
また法に定められた要件を満たさないと無効となってしまいます。
きちんと要件を確認して作成すれば問題ないのですが、手書きで簡単に作成できるからとよく調べずに作成すると、全ての要件を満たせず無効になるということもあり得ますので、注意が必要です。
(2) 公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。
メリットとしては、公証人が作成に関与するために、形式的な要件で無効になることが避けられやすいというメリットがあります。
一方で、デメリットとしては、平日の日中に原則として公証役場に出向く必要があるなど、作成に手間と費用がかかるという点が挙げられます。
4 遺言書を作成しても争族になってしまうケース
せっかく遺言を作成しても、遺言書の形式面・内容面で問題があったため争族になってしまうケースがあります。
(1)自筆証書遺言の有効性・内容の不備が問題となるケース
- ・日付を「平成○年○月吉日」としてしまったケース。
- ・遺言書に書かれてある不動産を特定できないケース。
- ・遺言作成時に遺言者の手が震えるので、家族が添え手をして遺言を完成させてしまったケース。
⇒教訓:自筆証書遺言より公正証書遺言。費用をケチらない!
(2)公正証書遺言の有効性が争われたケース
- ・遺言作成当時、94歳と高齢で老人性痴呆症により意思無能力だったとして遺言書が無効になったケース。
- ・遺言者が公証人の問いかけに対し、「ハイ」とか頷くのみで具体的な遺言内容に一言も言及しなかったので口述の要件を満たさないとして無効になったケース。
⇒教訓:公正証書遺言でも、遺言能力等が問題となるケースがあります。基本的には能力が衰える前に早めに遺言書を作成しましょう!
※遺言能力が争われそうな場合には、遺言無効確認訴訟に備えた対策が必要となるので、弁護士に相談すべきです。
(3)遺言書では長男に多くの遺産を遺したが、相続税が払えないので、結局遺言とは異なる遺産分割協議をしたケース
⇒教訓:遺言書作成の際は相続税も考慮し、各相続人が無理なく相続税が支払い得るのかをきちんと検討しましょう(*原則として、税理士に計算してもらいましょう。)。
(4)遺留分に配慮して遺言を作成したが、不動産が値上がりして、いつのまにか特定の相続人の遺留分を侵害する内容になってしまったケース
⇒教訓:作成した遺言書は定期的(1年に1回は遺言書の見直しの日を設ける!)に見直しましょう。
5 終わりに
遺言書の作成は、多角的かつ専門的な知見が必要となることが多いです。
残された遺族に無用な苦労をさせないためにも、遺言書の作成については、一度、川崎ひかり法律事務所にご相談ください。