遺産に不動産しかない場合(配偶者居住権について②)
相続法改正配偶者居住権1 はじめに
今回お亡くなりになった方の遺産にご自宅の不動産しか価値のある財産がない場合で、相続人が複数いる場合、どのようにしたらいいでしょうか?今回は、相続人が妻とお子さん1人の場合を想定してご説明します。
(1)相続人間の仲が良いケース
まず、相続人である妻とお子さんの仲が良く、遺産はすべて妻が取得すれば良いということであれば、今回の相続では妻が遺産をすべて取得するという遺産分割協議書を作成し、ご自宅の相続登記手続きを行えば、遺産分割手続は完了です。
(2)相続人間の仲が悪いケース
もっとも、妻とお子さんの関係性が悪く、お子さんが自分にも法定相続分である2分の1分を寄越せと主張される場合があります。
この場合、仮にご自宅の価値が5000万円だとすると、妻がご自宅を単独取得するためには、2500万円の代償金を自分の財産の中からお子さんに支払わなければなりません。
しかし、老後のための資金が目減りしてしまうため、あまり好ましくはないと思われます。
そして、代償金の支払いが難しいということになれば、ご自宅を売却して、売却代金から必要経費を控除した残額を半分ずつ分けるということになりますが、一般的にご高齢の妻としては、今まで慣れ親しんだご自宅を手放すことに抵抗感を感じることも多いでしょう。
最後の手段として、ご自宅を妻とお子さんの共有状態とするという選択肢もありますが、お子さんとの関係性が悪いと、配偶者が一人で住むなら賃料相当額を支払ってくれと言ってくることも考えられ、紛争が長期化する恐れもあります。
2 「配偶者居住権」の新設
そんな状況を解消しようと令和2年4月より施行された民法改正で新設されたのが「配偶者居住権」というものです。
以前のコラムでも概要を説明していますが、要は、長年連れ添った配偶者が、被相続人の死後も無償で自宅に引き続き住み続けることを権利として保障するものになります。
もっとも、この権利はあくまでも配偶者の居住権を保障するものですので、発生要件に加えて、色々な制約が付くことにはなります。
ただ、その分、配偶者居住権の金銭的な評価は、当該不動産の実際の評価額よりも低くなります。
なお、「配偶者短期居住権」については別コラムで解説します。
3 配偶者居住権の評価方法
この配偶者居住権の評価方法はいくつかありますが、簡易な評価方法として、
「建物敷地の現在価値―負担付き所有権の価値=配偶者居住権の価値」
という方法があります。
ここでいう負担付き所有権の価値とは、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮して配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定した上で、それを現在価値に引き直して求めるとされています。
つまり、今回の事例で言うと、お子さんが当該不動産の所有権を取得する一方で、お子さんは配偶者居住権の負担が消滅するまで当該不動産を利用できない為、その分の収益可能性を割り引く必要があるということです。
仮に、今回の事例で配偶者居住権の財産的な評価が2000万円とされた場合であれば、配偶者は遺産分割で配偶者居住権の他、500万円をお子さんから貰うことができます。
配偶者としては、引き続き慣れ親しんだ自宅に住み続けることができる上、老後の資金も確保できるというメリットがあります。
他方、お子さんとしても配偶者が亡くなった後には配偶者居住権が消滅することになるため、ご自宅を何の負担もない不動産として売却することが可能になることから、一定のメリットはあります。
4 最後に
配偶者居住権はまだまだ新しい制度なので、今後の事例の集積を分析していく必要があります。
遺産分割でお困りの方がいらっしゃいましたら、まずはお気軽に当事務所にご相談下さい。