口の後遺障害
1 歯牙障害
(1)後遺障害等級の種類
歯科補綴(ほてつ)を加えた場合に認められる後遺障害で、補綴を加えた歯の本数で後遺障害の等級が以下の10級から14級までに分かれます。
「歯科補綴を加える」とは、現実に喪失または著しく欠損した歯牙に対する補綴を意味し、分かりやすくいうと歯の体積が4分の3以上欠けてしまったり、なくなってしまった場合に、ブリッジやインプラントなどの人工物で補うことをいいます。
後遺障害等級 | 歯科補綴を加えた歯の本数(後遺障害の内容) | 自賠責の保険金 | 後遺障害慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率 |
10級4号 | 14歯以上 | 461万円 | 550万円 | 27% |
11級4号 | 10歯以上 | 331万円 | 420万円 | 20% |
12級3号 | 7歯以上 | 224万円 | 290万円 | 14% |
13級5号 | 5歯以上 | 139万円 | 180万円 | 9% |
14級2号 | 3歯以上 | 75万円 | 110万円 | 5% |
(2)歯牙障害の注意点
ア 上14本、下14本の合計28本の永久歯が、後遺障害等級の評価対象となります。そのため、親知らずや乳歯を欠損しても評価対象とはなりません
イ あくまで補綴を加えた歯の本数で判断するので、失った歯の本数で後遺障害等級が決まるわけではありません。
例えば、交通事故で欠損した歯の両隣の歯を大きく削って、ブリッジで補綴をしました。この場合は、失った歯は1本なので後遺障害等級非該当となるわけではなく、ブリッジにより3本の歯に補綴を加えたことになるので14級になります。
ウ 歯牙障害の場合は、歯科補綴により歯の機能が回復することがほとんどであるため、保険会社・加害者側から、現実的な労働能力喪失率はないとして、後遺障害により逸失利益について激しく争われる事案がほとんどです。この場合は、被害者の職業・職種、年齢及び性別、後遺症の部位・程度、具体的な仕事への影響の程度、事故後の収入の減少等を検討して、丁寧に裁判上で主張・立証をしていく必要があります。場合によっては、逸失利益が厳しくとも後遺障害慰謝料の増額を主張するなどの対応をとります。
それとは別に高額なインプラント治療の必要性・相当性が問題となったり、耐用年数が限られている場合に将来の義歯交換費用や補綴処理費用が問題となる事案も散見されます。
歯牙障害は、かなり問題点が多いので、是非、お早めに交通事故事件に詳しい川崎ひかり法律事務所にご相談ください。
2 味覚障害
(1)後遺障害等級の種類
味覚が失われると味覚脱失として12級になります。味覚脱失とは、基本4味質である甘味、塩味、酸味、苦味が全く感じられない状態をいいます。
味覚が減退した場合は14級になります。味覚減退とは、甘味、塩味、酸味、苦味のうち1味覚以上がわからなくなってしまった状態をいいます。
味覚障害の検査方法としては、電機味覚検査法や血液の血清中の亜鉛を測定する方法などがありますが、主流は、ろ紙ディスク法の最高濃度液検査になります。この検査では、4つの味覚の味がついたろ紙を舌の上において味覚を感じるかを見る検査法で、薄い味から濃い味へと5段階で検査が行われます。レベル1から3の範囲で味覚を感じたら基準範囲内となります。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率 |
12級 | 味覚脱失 | 290万円 | 14% |
14級 | 味覚減退 | 110万円 | 5% |
※慰謝料等は裁判所基準(赤い本基準)です。
(2)味覚障害の注意点
例えば、料理人、ソムリエ等味覚が仕事の可否及び内容に直結するような職業に被害者が就いている場合は、実態に合わせて労働能力喪失率表以上の喪失率を主張する場合があります。
被害者が料理人や専業主婦以外の場合は、歯牙障害と同様に、保険会社(加害者)から労働能力が本当に喪失したといえるのかが激しく争われます。そのため、是非、お早めに交通事故事件に詳しい川崎ひかり法律事務所にご相談ください。
3 そしゃく・言語の機能障害
(1)後遺障害等級の種類
そしゃくと言語機能の障害結果により、次の表の通り、1級から12級に分類されます。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 慰謝料(裁判基準) | 労働能力喪失率 |
1級2号 | そしゃくおよび言語機能を廃したもの | 2800万円 | 100% |
3級2号 | そしゃくまたは言語機能を廃したもの | 1990万円 | 100% |
4級2号 | そしゃくおよび言語機能に著しい障害を残すもの | 1670万円 | 92% |
6級2号 | そしゃくまたは言語機能に著しい障害を残すもの | 1180万円 | 67% |
9級6号 | そしゃくおよび言語機能に障害を残すもの | 690万円 | 35% |
10級3号 | そしゃくまたは言語機能に障害を残すもの | 550万円 | 27% |
12級 | 開口障害等を原因として、そしゃくに相当時間を要する場合 | 290万円 | 14% |
12級 | 声帯麻痺による著しいかすれ声 | 290万円 | 14% |
※慰謝料等は裁判所基準(赤い本基準)です。
ア 1級と3級の説明
「そしゃく機能を廃したもの」とは、スープ等の流動食以外は摂取できないものをいいます。
「言語機能を廃したもの」とは、4種の語音のうち、3種以上の発音が不能のものをいいます。4種の語音とは、
2 歯舌音(な行音、た行音、だ行音、ら行音、さ行音、しゅ、し、ざ行音、じ
ゅ)
3 口蓋音(か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
4 喉頭音(は行音)
のことをいいます。
そしゃく機能と言語機能の両方を廃した場合は1級となり、いずれか一方を廃
した場合は3級となります。
イ 4級と6級の説明
「そしゃく機能に著しい障害を残すもの」とは、粥食またはこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないものをいいます。
「言語機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、2種の発音が不能のもの または 綴音機能に障害があるため、言語のみを用いて意思を疎通することができないものをいいます。
そしゃく機能と言語機能の両方に著しい障害を残した場合は4級となり、いずれか一方に著しい障害を残す場合は6級となります。
ウ 9級と10級の説明
「そしゃく機能に障害を残すもの」とは、固形食物の中にそしゃくができないものがあることまたはそしゃくが十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できるものをいいます。
例としては、ごはん、煮魚、ハム等はそしゃくできるが、たくあん、らっきょう、ピーナッツ等の一定の固さの食物中にそしゃくができないものがあること
またはそしゃくが十分にできないものがある場合をいいます。
「言語機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、1種の発音が不能のものをいいます。
そしゃく機能と言語機能の両方に障害を残した場合は9級となり、いずれか一方に障害を残す場合は10級となります。
エ 12級の説明
「開口障害等を原因として」とは、開口障害、不正咬合、そしゃく関与筋群の脆弱化等を原因として、そしゃくに相当時間を要することが医学的に確認できることをいいます。
「そしゃくに相当時間を要する場合」とは、日常の食事において、食物のそしゃくはできるものの、食物によってはそしゃくに相当時間を要することがあることをいいます。
(2)そしゃく・言語障害の注意点
かすれ声については、見逃しやすい後遺障害であり、整形外科ではなく耳鼻咽喉科での検査が必要となりますのでご注意ください。
また、そしゃく・言語機能障害も、保険会社(加害者)から労働能力喪失率が争われやすい後遺障害となります。そのため、是非、お早めに交通事故事件に詳しい川崎ひかり法律事務所にご相談ください。