相続人の調査・確定
1 相続人の調査とは何か
相続が発生した場合には、亡くなった方(被相続人という呼び方をします。)の相続人が誰か?という問題が発生することがあります。
「亡くなった方の相続人は誰なのかを調べる」という作業が、相続人の調査です。
相続人が遺産分割協議の相手方を確定させるために相続人の調査が必要となりますし、相続債権者が債権の請求相手を確定させるために相続人調査が必要となったりします。
2 相続人の調査の方法
相続人を調査するためには、亡くなった方の戸籍を順番に辿っていく作業、つまり、戸籍を収集する作業をしていくことになります。
この戸籍の収集作業は、戸籍の内容を読み込んだ上で内容を理解することだけでなく、相続の知識も必要になってきますので、専門的な知識が必要になってくる場面が多いといえます。
例えば、単純な親子間の相続であれば、収集する戸籍の量も比較的少なくて済むことも多いのですが、兄弟姉妹間の相続で、かつ、たくさんの兄弟姉妹が相続人になる場合には、収集する戸籍が膨大な量になることも珍しくありません。
3 どのような場合に相続人の調査が必要か
(1) 原則として相続人の調査は必要
誰かが亡くなった場合には、ほとんどのケースで相続人の調査は必要になってきます。
例えば、相続の典型的なケースとして、父母と子供2人の4人家族のうち、父が亡くなったとします。
父名義の遺産は自宅とその敷地、預貯金があるとしましょう。
この場合、亡くなった父の相続人は、当たり前に、母と子供2人の全部で3人だから相続人の調査なんて必要ないよね?と思われる方も多いかもしれません。
しかし、父の名義の自宅や敷地を誰かの名義に変えるにも、口座凍結された父名義の預金を解約するのにも、父の相続人の調査、つまり、父の相続人が母と子供2人の3人であることを証明する全ての戸籍関係書類が必要になってくるのです。
このように、亡くなった父の戸籍を辿っていって、必要な全ての戸籍を収集することにより、父の相続人が母と子供2人の3人であることが証明できた場合に、初めて相続人が確定するということになります。
相続の典型的なケースにおける相続人の調査は、「念のために相続人を調査・確認する作業」とでも言い換えられるでしょう。
(2) 相続人の調査が必要となる典型的なケース
原則として相続人の調査が必要になるということは先にも述べたとおりですが、相続人の調査が必要となる典型的なケースもあります。
先に述べた相続の典型的なケースとは異なり、亡くなった方の相続人がそもそも誰なのかわからない、といったケースにおいては、「相続人を探す」という意味での調査が必要になってきます。
例えば、結婚をしたことがなく、子供もいない独身のおじいさんがいたとします。
おじいさんの家の近くには、甥っ子が住んでいて、時々、おじいさんの様子を見に行ったりしていました。
おじいさんには兄弟姉妹が8人いるらしいのですが、諸事情により20年以上は音信不通の状態です。
ある日、突然おじいさんが亡くなってしまった場合に、おじいさんの兄弟姉妹及び既に亡くなっている兄弟姉妹の子(甥姪)も相続人になるのですが、おじいさんの一番身近にいた甥っ子は、おじいさんの兄弟姉妹も甥姪も、一部を除いては知らないといった場合には、そもそも相続人が誰になるのかを調査していかなければいけなくなるのです。
このように、亡くなった方との関係が遠くなってくればくるほど、そもそも相続人が誰なのかよくわからない、相続手続をどのように進めていったらいいかよくわからない、といった問題が出てきやすいということになります。
(3) 例外的に相続人の調査が不要なケース
それでは、例外的に相続人の調査が不要なケースとはどのような場合でしょうか。
ア 公正証書遺言等があるケース
まず例外の一つは、公正証書で作成した遺言によって、亡くなった方の財産を相続する人が定められているケースです。
この場合には、相続人が誰で、相続人が何人いようと、「この人に相続させる」ということが遺言書に書いてありますので、全ての相続人を調査しなくとも相続手続、すなわち、不動産の名義変更や銀行預金の解約などを進めることができるのです。
このようなことから、遺言書を作成することは、相続人を調査するという面倒な手続を省略して手続きをスムーズに進めることができるメリットがあるといえるでしょう。
イ 目立った財産がないケース
次に、亡くなった方の財産がほとんどなくて、しかも負債もないといったケースになります。
このようなケースは多くはないのですが、相続人の調査は、そもそも亡くなった方の遺産(不動産や預貯金、有価証券など)を相続人全員で分ける手続を進める場合に必要になってくる作業なのです。
言い換えれば、目立った遺産がほとんどない場合には、相続人調査をしてまで手続を進めるほどのメリットはないということになります。
相続人の調査は「義務」ではないのです。
4 まとめ
以上、相続人の調査についてご説明しましたが、相続人の調査が必要な典型的なケースにあてはまるような場合には、特に専門家によるサポートが必須になってくると考えられます。
その際には、相続手続に慣れている専門家かどうかによって、手続のスムーズさがかなり変わってきますので、当事務所にまずはご相談いただければと思います。